(2023年10月12日投稿)
さて、虐殺の急速な拡大を推し進めたのは何だったのか?(45ページ)
①流言が伝えられるうちに強力なものになっていった。
流言は「いつ、どこで、どんなことがあったのか」という具体的な内容を持った。すでに知っている確実な情報と関連、信頼すべき人から伝えられた「筋の通ったもの」に変化した。こうなってしまうと聞いた人は信用してしまう。
②集団化。流言が集団的に信じられている時、人は群衆の一員となって判断を停止し、集団の流れのままに行動する。
長岡熊雄判事は9月3日、桜木町駅付近で、「警察部長から朝鮮人と見れば殺害しても差し支えないという通達が出ている」という説明をする男と会った。長岡判事はその話を信用しなかったが、打ち消してもいない。それどころか朝鮮人と誤認されないためにと言われて赤い布を腕に巻いている。
石坂修一判事も「朝鮮人と見れば時かに殺してよしという布告が出た」という話を聞いて、否定も肯定も疑問もなく判断停止のまま聞いていたそうである。(46ページ)
中の人の推測です。
治安悪化の中、不安と恐怖で一種の集団ヒステリー状態となった?
情報が寸断された横浜に正確な情報が伝えられることはなかった。本来正確な情報を冷静に判断できるはずのプロである判事ですらこの状態であった。なので周りに言われるまま応戦した若き三郎氏を責めることはできないと思います。
横浜第一中学校が管内だった戸部警察署の動き。
地震直後は半壊。しかし1日午後4時に焼失。焼失までに時間があったので、重要書類を搬出した上で、藤棚派出所に署員一同で避難。
この戸部署の地域は保土ヶ谷にかけての工業地帯で、朝鮮人、中国人労働者が急増していた。保土ヶ谷では鉄道工事、セメント採掘が行われていて、現場に朝鮮人労働者がいた。
戸部署の遠藤至道署長『補天石』警察資料『震災日誌』
戸部署で初めての流言確認2日午前中。
2日正午ごろ、「久保山方面から不逞鮮人の一団が襲撃してくる」という流言。
「鮮人大暴挙に出て、避難民を襲撃する」
「浅間町、久保町、保土ヶ谷町果ては県立第一中学校校庭に迫るとの警報が出た」という流言。
戸部署は私服の偵察隊を出す。
本格的に動き出すのは2日午後1時以降。制服巡査隊を組織。
「相当偵察の上、事実不穏の行動あらば逮捕することとして、久保町方面に出動させた」
しかし、「暴行を働く朝鮮人はいなかった」と報告。「刀剣などを持った自警団が所々にいたので、軽率妄動を戒めた」「保土ヶ谷駅付近に於いて朝鮮人10名の進退の窮したるを発見。これを仮警察署事務所に同行保護」
しかし
「朝鮮人10名を保護するために警察が連れて行くさまを、人々は怪しい朝鮮人を連行していったと見なす」(49ページから51ページ)
保土ヶ谷の朝鮮人は工場宿舎などで集団で住んでいた。この宿舎などに多数の民衆が襲撃をする事態になっていった。なので、これらの朝鮮人、そして中国人を警察署内に保護収容することにした。朝鮮人150名から160名。中国人数十名を保護。
この保護収容を「不逞鮮人」の検挙と思いこんだ民衆が警察に押し掛け騒然とした。(54ページ)
藤棚仮庁舎が手狭なので、2日午後5時、県立横浜第一中学校の校舎に移送。戸部署の仮庁舎も同時に移動。
しかし校庭には数千人の避難民がいて、時々喚声を上げ、銃声さえ聞こえる状況。
つまり校舎内には戸部署と保護された朝鮮人、中国人。校庭には「不逞鮮人あらば殺害する」といきり立つ自警団がいる避難民。大混乱の一夜となる。(54ページ)
朝鮮人たちは8日以降、横浜港に停泊中の華山丸に移送。9月末に下船。元の労働現場に戻る。
2日夜、「朝鮮人の発砲で怪我をした」という訴えがあった。現地調査の結果、「発砲者は朝鮮人ではない」ことを確認。(55ページ)
警察官が流言を煽り、武器携帯を推奨し、虐殺を容認、肯定するという誤った行動もあった。(56ページ)
河西春海朝日新聞記者
「朝鮮人を追って来た巡査に『朝鮮人襲撃は本当なのか。それは組織的行動なのか、その目的は何か』と聞いたら、本当だと答えた。根拠は藤棚で捕まったものは『何々方面』と書いた紙片を持っていたり、呼子の笛を持っていたりしたから。しかし巡査の説明でもあり、具体的な事実を告げたので、事実だと信じてしまった」
そして「植民地支配に対する報いを受けているのだ」と思った。」
河西春海氏は「抜剣した警察官が、銃を持った自警団と一緒に不逞鮮人を追いかけるさま」をも書いているそうです。(56ページ、57ページ)
戸部署管内の自警団は2日午後3時頃にはどんどん広がっていった。青年会、在郷軍人会。
「警察を上回る多数の武装集団の出現は、治安の崩壊と警察の無力化を招く」(59ページ)
結局県当局が「武装携帯の禁止」を全市に通知するのは4日のことであった。(60ページ)
(この投稿でも鮮人という言葉が出てきています。良くない言葉ですが、オリジナルの文章に則ってそのまま書きました。差別を助長するものではありません)